NPO法人フリースクール
阿波 風月庵 -ふうげつあん-

家族に対する憎しみがエネルギー

 年齢の高いひきこもり支援

最近問われている「80:50」問題といわれることに、少し違和感を覚えながら、ひとつの事例を思い出しました。それは、40代の男性で、20年程自宅にひきこもっていたのですが、ご自分から訴えがあり、「この家に居たくない」と役場に連絡が入り、支援が始まりました。

家族との関係もとても悪く、健康状態や、財政的にも、様々な課題が考えられました。支援員の電話相談から始まり、ご本人には会えない訪問を経て、ご本人から役場に突然の連絡があり、急展開をしていきました。自分の言いたいことははっきりと主張されますが、内容的には、聞きながら整理が必要な状態でした。

支援者側の何とかしたい姿勢と、どうにかしてもらいたい相談者の熱意とが、ポツリポツリと具体案を搾り出した様でした。あれから3年で、色んな団体からの支援を組み合わせながら、福祉の単純作業就労から、責任が伴う一般就労へと近づいています。生活も、自宅から出て、グループホームで訓練生活をしながら、自活への道を歩き始めました。

一歩先、一歩先の提案に、一歩一歩応えてきた積み重ね

正直言って私は、この男性がこんなに早く自分で生活し、仕事を続けることが出来るようになるとは思えなかったのです。表面的には家族・親類・社会に対する憎しみが、そのエネルギーであった様に思います。

また、母親が亡くなられ、親族からも一切の連絡を遮断されたことも、動きを創ったのかもしれません。

さらに、支援員Aさんが、彼に合った一歩先、一歩先の提案を、試行錯誤しながら出し続け、それに対し、彼が一歩一歩応えてきた積み重ねの賜物と思えます。

ひきこもりからの回復に、ひきこもっていた年月をさほど気にすることはないのではないかと、この事例を見守りながら、その様な思いが湧いてきました。

歯がぼろぼろで、治療に何ヶ月も通う

当初はこだわりが強く、家族からいじめられているという訴えもありました。早く助けてと聞かされましても、緊急対応の必要性を疑いたくなる言動もありました。それだからこそ、家族から脱出できたのかもしれません。

歯がぼろぼろで、歯医者の治療にも何ヶ月も通うことになり、まともな食事はしないのに、煙草だけは吸うという時期もありました。今は、グループホームで生活し、福祉就労施設の外部作業(給料が高い)に参加しながら、障害年金とで、自活され始めています。

自分らしい生き方が出来るまでには、まだ時間がかかりますが、さらに経験を積むことで、色んな可能性が見えて、やりたいこともはっきりしてくるのではないでしょうか。

ご本人の意思と、やり方と、ペースを尊重し、根気よく見守る人の存在が大きいことを、私たちが忘れてはいけないと思います。     かぜ

注;この話しは、プライバシーを守る観点から、いくつかの事例を合わせ、一般化した内容です。